第9章 野花咲く太陽の下
「私…、生きている間に太陽が見たかった……」
ため息をこぼすようにビアンカは儚く呟く。
「……太陽?」
「うん…。生まれてから一度も見たことがないんだもの。上の世界に生まれていたら、当たり前に太陽を見上げられたのにね…」
「それが、ビアンカの夢か…?」
「可笑しい?」
力なく口元を緩めてビアンカは笑う。
リヴァイはビアンカの頬に手を添えた。
青白い顔は痩せて弾力を失っている。
カサカサとしたそこをなぞりながら、リヴァイもまた力なく眉を下げた。
「別に。可笑しくなんかねぇよ」
「うん…」
「……ビアンカ。考えてたことがあるんだ」
「何…?」
リヴァイは神妙な顔をして頬をなぞる手を止めた。
僅かな沈黙のあと、真っ直ぐにビアンカの瞳を見つめ、静かにそれを告げる。
「俺たち、一緒になろう」
「……」
「二人で生きよう」
リヴァイのその想いを噛み締めるように、ビアンカは瞳を閉じる。
夢見た未来には、リヴァイの姿が確かにあった。
そんな幸せが自分にも訪れるかもしれないと、微かに期待もした。
けれど。
自分がいなくなった時、夫婦であったことがリヴァイの枷になってしまったら。
リヴァイがその過去に囚われることになってしまうとしたら。
この先のリヴァイの幸せを思うと、首を縦に振ることはとてもできなかった。