第1章 地下街の三人
「おはよう、リヴァイ」
「おはよ…」
「ケニーは?」
「出掛けた」
「帰りはいつだって?」
「さあ?聞いてないけど」
ある朝のこと。
ビアンカはパンの入ったバスケットを持って、ケニーの部屋を訪れた。
中ではリヴァイが一人、掃除に励んでいるところだ。
男二人の生活を気にしてここを訪れることは少なくない。
今日はたまたま安くパンが手に入ったため、二人の元へこうしてやって来た。
「朝食は済んだ?」
「まだ」
「じゃあ、これ食べて」
「ありがと」
ビアンカが差し出したバスケットを受け取りそれをジッと見下ろした後、リヴァイは小さく返す。
部屋の中をグルリと見渡してみる。
ケニー一人の時は、脱ぎ捨てた洗濯物や洗い場に置かれたままの皿に眉をひそめたものだ。
今はいつ来ても綺麗な状態が保たれている。
「リヴァイって、ほんと家事が得意なのね」
感心したようにそう言えば、リヴァイは床を磨く手を止めた。
「母さんが仕事に出てる時にいつもしてたから。それに、地下では清潔に気を付けていないと病気になるからって、よく言われてた」
「そう…」
リヴァイが母親のことに触れるようになったのは、ごく最近のこと。
その話からは、母子二人で慎ましく暮らしていたことが伺えた。
「ビアンカ、仕事は?」
「今日は休み」
「ふうん」
「ここにいてもいい?」
「え…?うん…」
「ねえ、リヴァイ。髪の毛切っちゃう?」
ゆらゆら揺れる長い黒髪を見て、ビアンカはふと思い立つ。
初めて会った時から少し伸びたリヴァイの髪の毛は、肩に届くまでになっていた。