第1章 地下街の三人
「はぁ…。保護者ってのはゆっくりセックスもできねぇのか」
ブツブツ言いながらベッドから降りるケニー。
脱ぎ捨てたシャツを簡単に羽織り、靴を履き立ち上がる。
乱れた髪を大きな手で掻き上げる仕草を見ながら、ビアンカは思う。
この男、喋り方だけどうにかならないものなのか。
せっかく漂う色気も口を開けば全てぶち壊しだ。
「どうした?見とれてんのか?」
ビアンカの視線に気づいたケニーが悪戯っぽく笑う。
「うん……」
表情を変えず答えるビアンカ。
一瞬の間を作った後、ケニーはまた先程の顔をする。
「お前急に素直になる時あるよな。そういうとこ、好きだぜ?」
「……ありがと」
ケニーは、横になったままのビアンカの唇に軽くキスを落とす。
「じゃあな」
「おやすみ…」
扉が閉まるなり、遠ざかっていく足音。
部屋に一人きり。とても静かだ。
こんな夜はいつものことなのに、体を重ねた後ではやたら虚しさが残る。
ビアンカは裸のままベッドから降り、ドアを施錠する。
つい今しがたまでケニーが寝ていた場所にまた横になると、微かに残った彼の香りを吸い込み、無理矢理瞼を閉じた。