第9章 野花咲く太陽の下
秋が過ぎ、地下街は冷えた空気に包み込まれるようになった。
天を覆う壁の隙間からは、時折白い綿雪が舞い落ちる。
重苦しい体が堪えるようになり、ビアンカは仕事を休みがちになっていた。
古書店の店主には無理に仕事に来なくていいと言われたが、何か自分にできることをしていなくては、ますます病に犯されてしまいそうな気がして怖かった。
幸い人に伝染する病ではないし、店番ならば体力を使わなくて済む。
今日も無事に仕事をやり終えて、ビアンカは家へと帰り着いた。
ベッドへ腰掛けそのまま上半身を横たえる。
やはり仕事をした日は明らかに体が重い。
こうして歩いて帰ってくるだけでも、息が上がってしまう。
春先に病だと知った時よりも症状が悪化しているのがわかる。
ドクドクと動く心臓を落ち着けるように深呼吸を繰り返していると、木の軋む音と共に部屋の扉が開いた。
「ビアンカ。入るぞ?」
リヴァイは横たわるビアンカに近づき身を屈める。
伏せていた瞼を開き、顔を上げるビアンカ。
「リヴァイ…」
「辛いならそのまま寝てろ。食欲は?」
ふるふると小さく首を振りまた目を閉じると、喋りづらそうに息をしながらリヴァイに問う。
「ねえ、リヴァイ…。私、長く生きられないんでしょう…?」
「バカ言うな」
「何となく分かるのよ。体がそう言ってる…」
日に日に体力が奪われ、腕も足もだいぶ痩せ細ってきた。
顔もやつれてしまい、鏡を見るのが酷く億劫だ。