第8章 夢
儚い夢を見てしまった。
何て幸せな夢だったのだろう。
リヴァイとの命なら、自分の身に代えても守りたいと思った。
そしてもし……、もしもリヴァイが頷いてくれたなら。
陽の射さないこんな場所でも、きっと三人で幸せに暮らしていける。
…そんな風に思ってしまった。
けれども、突きつけられた現実はそんな甘い夢を見た後ではあまりにも残酷だった。
「病気」、「治らない」―――。
医師に告げられた言葉に打ちのめされた。
ベッドに身を投げ、枕に顔を埋める。
「ああぁぁっ……!!」
込み上げるものを抑えきれず、声を上げた。
これから先、この体はどうなってしまうのだろう。
一体いつまで生きていられるのだろうか。
未来への悲観。
死への恐怖。
そして、必ずやってくるリヴァイとの別離―――。
「何で私が…っ?」
着るものが貧相でも、満足に食べられなくとも、明日を生きられるというのは何と幸せなことだったのだろう。
今更そんなことに気づいてもどうしようもない。
ここ数年は、あまりにも平穏で幸せだった。
だからほんの少し、幸せというものが日常の一部になってしまっていたのだ。
当たり前のようにリヴァイがそばにいてくれて、見守ってくれて、温かな時間をくれる。
その有難みを噛み締められなくなった自分に、罰が当たったのかもしれない。
ビアンカは悔いた。
今は、この恐ろしい現実を受け止めきれる心など持ち合わせていない。
ただひたすらに泣いた。
闇が落ちても、微かに外が白み始めても。