第8章 夢
どれだけその場所にいたか……。
触れていたドアノブが突如動き、扉が開かれた。
そこに突っ立ったままのビアンカに、驚いた顔をするリヴァイ。
「どうした…?そんなところで」
「………」
黙って部屋の中へ入るビアンカに、リヴァイも後を追う。
「おい、ビアンカ?」
ビアンカは背を向けたまま口元を手で覆い、声にならない程の掠れた音を出した。
「リヴァイ…」
様子がおかしいビアンカに歩み寄り、顔を覗き込む。
その色は、いつにも増して青白い。
ビアンカは目を瞑り大きく息を吐いたあと、唇と声を震わせた。
「私…、病気だって…」
「………」
「治らないんだって…」
「………」
―――病気?
―――治らない?
一瞬思考が停止し、返す言葉が見つからない。
ビアンカは沈黙を貫き、もう何も口にしようとはしない。
どんな病気なのか、
治療法はないのか、
これからどんな症状が現れるのか、
命が脅かされるような病なのか……?
リヴァイは問い詰めたい気持ちをグッと飲み込み、ビアンカに近づいた。
「ビアンカ…」
目の前の肩がピクッと揺れる。
ただこうすることしか思い浮かばない。
ビアンカのそばに寄り添ってやることしか。
「リヴァイ、一人にしてくれる?」
「………」
「お願いっ…!」
切羽詰まったようなビアンカの声。
必死に涙を堪えているのがわかる。
堪らず小さな体を抱きすくめるが、ビアンカはすぐに身を捩りそこから逃れてしまう。
「お願い、帰って…っ!!」
こんな風に拒絶されたのは初めてだ。
黙って彼女の体から手を離した。
これ以上、ビアンカの心を掻き乱したくはない。
「……また、来る」
家を出たリヴァイは、呆然とその場に立ち尽くした。
眉間に力を入れしばらく地面を睨み付けていたが、何か思い付いたように顔を上げ、大股で歩き出す。
目的の場所まで、他のものには目もくれなかった。