第1章 地下街の三人
「あっ……!ケニー…」
「相変わらずいい声じゃねぇか」
「…っ、バカッ……」
この男に体を許したのは、ビアンカには与えられるものがそれしかなかったから。
この男に心を許したのは、愛をなくしたビアンカに再びその感情を思い起こさせてくれたから。
今思えば、その時はそれが愛だと思いたかったのかもしれない。
けれど、月日を重ねるうちにそれは確かなものとなった。
例えこの男に愛されていなくてもいい。
抱かれている間だけでも、ケニーの瞳に映ることができれば、それでいい。
「リヴァイ大丈夫かな…」
「ガキは寝んねしてるだろ」
「だいぶケニーにも懐いてきたわよね」
「懐くっていうのか?ありゃあ?」
リヴァイを拾ってから一ヶ月が過ぎていた。
痩せ細っているのは変わりないが、何とか見られるようにはなった。
喋り方も虚ろだった顔つきも、今やしっかりとしている。
ただ喜怒哀楽が乏しく、表情もあまり変わらない。
母親を亡くしたせいか、持って生まれた性質か。
そればかりは、たった一ヶ月ではまだわからなかった。
「やたら部屋を綺麗にしたがるんだ、あいつ。散らかってるくらいのが落ち着くんだけどなぁ」
「ケニーは散らかし過ぎ。良かったじゃない、リヴァイがしっかりした子で。ケニーのが子どもみたいね」
「子どもがお前を満足させられるかよ?」
再び覆い被さってきたケニーが得意気に笑い、ビアンカを見下ろす。
「ねえ、リヴァイが心配。そろそろ…」
リヴァイと暮らすようになってからは、ケニーが朝までここに居ることはなくなった。
ベッドに並び程々に他愛ないお喋りをしたら、リヴァイの待つ部屋へと帰っていく。