第1章 地下街の三人
ここに来た時よりはだいぶマシになった。
しかし、年相応の子どもらしく見えるようになるにはまだ当分かかるだろう。
ケニーは帽子とコートを身に付けビアンカに耳打ちする。
「久しぶりに会ったってぇのに、可愛がってやれなくて悪いな」
「……本当よ」
ビアンカは今日初めてケニーの言葉に素直に答える。
「助かった。ありがとよ。この埋め合わせはまた今度な」
「期待しないで待ってる」
「そう言うな」
ケニーと子ども。
どう見ても不釣り合いな二人の後ろ姿を眺めながら、ビアンカは部屋の扉を閉めた。
リヴァイはきっと、ケニーの子どもなのだろう。
でなければ、彼が一緒に暮らす理由などない。
馴れ馴れしいように見えて本当は人間嫌いな男だ。
肝心なことは口にしないし、一線引いて自分の世界に踏み込まれないよう予防線を張っている。
さっきのケニーがいい証拠だ。
けれどもあれは、追求しようとした自分が悪かった。
リヴァイがケニーの子であろうとなかろうと、ビアンカには関係のないこと。
ただケニーが決めたことならば、それを見守るだけ。
リヴァイと初めて出会ったこの日のことは、ビアンカの脳裏に強く焼き付いた。
運命の日が来ても、それは昨日の出来事のように思い起こされることとなる―――。