第6章 二人
「私の父親はね、借金を作って逃げちゃったの…」
家に辿り着くと、リヴァイに促されるまま椅子に腰掛け、差し出された毛布を身に纏う。
背中を向けたままのリヴァイは暖炉に薪を焼べ、彼女の話を無言で聞いていた。
「体を売ったのは、それが理由。お金が必要だったの…。
びっくりした…でしょう…?」
「地下では男でも女でも、皆足掻きながら生きてる。自分が望むように生きられる奴なんて滅多にいない。
…知ってるだろう?俺の母さんだってそうだ」
リヴァイはいつもと変わらぬ口調で、少しずつ大きくなる炎を見つめながら呟いた。
重なるのだ。娼婦として働いていた母親と、ビアンカが…。
「リヴァイを守るために生きていたお母さんと私じゃ、全然違う……。それにね、酷いのはそこじゃない…」
声を落としたビアンカに気づき、漸く振り向くリヴァイ。
「気づいたの……。私、リヴァイには "普通の女" として見ていて欲しかったんだって」
なんて狡い…。
「好きでもない男と寝るような私も、それを何とも思わなくなった私も、リヴァイに人殺しさせた私も……。とっくに "普通" なんかじゃないのに……」
リヴァイを犠牲にしておいて自分だけ "普通" でいたいだなんて。
ビアンカは心の奥底に潜む狡猾な自分に、酷く落胆していた。
静かな足音が歩み寄ってくる。
ビアンカの冷たい手は温かなそれに引かれ、炎の大きくなった暖炉の前まで導かれた。