第6章 二人
ふらふらと歩いているうちに、見つけたパン屋。
焼きたてのパンの芳醇な薫りが立ち込め、この空間にいるだけでも空腹が満たされていく気がする。
しかし、気がする、というだけで実際満たされるはずもない。
いつもパン屋で選ぶものは決まっている。
大きなバゲットが一つ。
この大きさなら三日はもつだろう。
それからクロワッサンを二つ。
自分とリヴァイの分、一つずつ。
まとめて袋に詰めてもらい、片手に抱えて店を出る。
さて。次はシチュー用の野菜だ。
芋やニンジン、日もちしそうなものはまとめ買いしておきたい。
リヴァイが日用品を買い終えてこちらに来てくれるのを待つことにする。
パン屋の軒先で、ビアンカは行き交う人々に絶えず視線を送る。
その流れの中に見馴れた黒髪が揺れるのを待つのだが、なかなかそれはやって来ない。
抱えた紙袋を抱き直し、寒さでかじかむ手を擦ろうとした時だった。
「ビアンカ」
ふいに、背後から声を掛けられる。
振り向いた先に立っていたのは、中肉中背の若い男。
無精髭を生やし、あまり人相は良くない。
一瞬、誰だったかと頭に疑問符が浮かぶ。
が、その直後。
駆け抜けるようにビアンカの記憶は過去へと遡り、顔色は瞬く間に蒼白く変化した。