第6章 二人
目的の市場は、通い慣れているそれよりも数倍広かった。
色々と買い込んで帰るにはやはり家からは距離がある。
リヴァイに来てもらって良かった…と思いつつ、必要なものを記したメモを渡す。
「私パン屋に行くから、リヴァイは日用品お願い」
「わかった。買い終わったらそっちへ行く」
「うん」
ビアンカはパン屋を探してキョロキョロ辺りを見回した。
初めて来る場所ではないのだが、店の位置関係までは把握していない。
取り合えず市場の中を歩いていれば辿り着けるだろうと、数ある店を横切って行く。
目に留まったのは、山盛りのトマトが店先に置かれた八百屋。
昔豆のスープに文句を言われた後、ケニーの好物だというトマトスープを作るために訪れた店。
嫌味のようにトマトを買い込んで、ケニーに持たせたことがあった。
今、何をしているのだろう―――。
こんな考えが過るのはもう何度目か。
別れた当初、ぽっかりと穴が開く、とはこういう感情のことを言うのかと妙に納得した覚えがある。
けれど、リヴァイの前でだけは辛い顔を見せてはいけないと、心に釘を刺した。
母親に先立たれ、父親だと思っていた男は別れの言葉もなく突然自分の元から去ってしまったのだ。
リヴァイの方が、きっと何倍も辛い。
気持ちを素直に吐露するリヴァイではなかったから、余計にそばにいてあげなくてはと思った。
その時は、支えになりたいと思ったのだ。
ところが、二人でいることが当たり前になった今。
リヴァイに支えられてきたのは自分の方だったと気づく。
もう、リヴァイと離れることは考えられなくなっていた。
しかし、二人は家族でもない、恋人でもない。
そのうちにリヴァイが誰かと恋に落ち結ばれる時が来たら、上手く笑えるだろうか。
そもそも、リヴァイに対して抱いているこの感情は何なのだろう。
目下の所、ビアンカの頭を占めているのはそんなことだった。