第1章 地下街の三人
「ねえ。リヴァイってまさか、あんたの…」
「"知り合い"の子どもだ」
ビアンカが口にする先を読んだケニーは、それを打ち消した。
二人の間に沈黙が走る。
ケニーの目が、それ以上詮索するなと言っている。
「……そう」
ふと目を逸らしたビアンカの肩に、腕を回すケニー。
「さすがの俺もガキのいる横ではヤれねぇからよ。これからはお前の家でだけってことで、な?」
いつもの調子のケニーに戻った所で、ビアンカは肩に乗せられた手を叩く。
「スープもういいかしら」
鍋の中のジャガイモはさっきよりも小さくなっていた。
まだ熱いそれを皿に盛ってスプーンを添え、リヴァイへ差し出す。
リヴァイはテーブルの上のスープにジッと視線を落とした後、ビアンカを見上げた。
「熱いから気を付けて。しっかり噛んで食べるのよ」
小さく頷きスープを掬うと、フウッと息を吹き掛けてからそれを啜り始めた。
黙々と食べ続け、皿の中の嵩は減っていく。
空になった皿を見届けたあとは、たらいに湯を張り湯浴みの準備だ。
普段から不潔にならない程度にでも湯浴みしていれば、そこまでの汚れは出ないはず。
しかし今のリヴァイはそうはいかないだろう。
たらいの中の湯が垢にまみれることを想像したビアンカは、鍋にまた水を汲み、湯を追加できるよう火にかけた。
予想通り、ふやけた肌からは次々と垢がこぼれた。
少し指先で擦るだけで、どこに潜んでいるのかという程溢れ出てくる。
たちまち湯の表面は垢で一杯になってしまった。
ケニーにも手伝わせ、湯を沸かしては変えることを繰り返す。
何度目かで漸く湯の表面が落ち着くと、それを最後にリヴァイをたらいから出し、タオルで水分を拭き取った。
「取りあえず、私の服着ておいて」
ビアンカは自分のシャツをリヴァイに着せてやる。
身長の低いビアンカの服は、リヴァイが着てもそうおかしくはなかった。