第6章 二人
「酔いを覚ましてくる」
そう言って出て行ったケニーが帰ってくることはなかった。
ひと月たっても、ふた月たっても。
一年たっても、二年たっても――――。
理由などわからない。
あの夜妙な思い出話をしたのは、リヴァイの元から去るつもりでいたからなのだと、後になって腑に落ちた。
大事なものは次々去ってしまう。
クシェルも、ケニーも。
それならば、ビアンカだけは決して離したりしない。
ビアンカだけは、ずっとそばに―――。
「ビアンカ。出掛けるのか?」
「うん、ちょうど夕食の買い物に行くところだったの。時間ある?」
「ああ。付き合う」
その日リヴァイがビアンカの家を訪れると、市場へ行くところに出くわした。
「リヴァイが一緒に来てくれるなら、少し遠くの市場まで行ってもいい?」
「いいけど…」
「今日は寒いからシチューにするね。好きでしょ?」
「ああ」
ケニーがいなくなってからというもの、二人で夕食を食べるのはもう日課になっていた。
献立にはリヴァイの好みを取り入れることもしばしば。
二人並んで歩き始めた途端、冬の訪れを感じさせる風がビアンカの体を震わせる。
「寒い…。やっぱり上着取ってくる。待ってて?」
少し歩いただけでこれでは、風邪を引いてしまいそうだ。
足早に家へと戻り、上着を手に取る。
少しでも暖を取れるようきっちりそれを羽織ると、リヴァイの元へ戻るべく、再び人の行き交う往来へと向かった。