第5章 去る者 ※
腕の中ですすり泣くビアンカに、何も言ってやることはできなかった。
強がっていても弱い部分を隠しきれないビアンカ。
別れを予感すれば涙を堪えきれない、そんなどこにでもいるような女。
言えやしない。
一緒に来るか?―――なんて。
ケニーが身を染めた世界は、この地下街よりも余程汚い。
それが太陽の光射す、地上の世界だとしても。
明るく眩しくて、そよぐ風の心地よさや雨の恵みが直に届けられる場所。
見上げる分には夢のような場所だとしても、ビアンカには見せたくないものがある。
その見せたくないもののひとつが、これからの自分。
リヴァイがそばにいれば、ビアンカは一人にならずに済む。
リヴァイが地下から這い上がろうとする時。
その時は、間違いなくビアンカを一緒に連れて来るだろう。
自分と見る世界よりも、リヴァイと見る世界の方がきっと光に満ちている。
とても連れては行けねぇよ。
「お前を愛してた」
これだけは、最後まで言うことはできなかった―――。