第5章 去る者 ※
昔、軽々しくビアンカが問うた質問。
その答えがここで返されるとは思いもしなかった。
「妹は…クシェルは、この地下の世界でたった一人でリヴァイを産んだ。
迫害されねぇように、殺されねぇように、アッカーマンをひた隠しにして "ただのリヴァイ" としてあいつを育てたんだよ。リヴァイを守るためにな。
……俺が出生を語るなんてこと、できねぇ」
「でも…、リヴァイはケニーを父親だと思ってるわよ?」
「あいつがそう言ったのか?」
「違うけど…分かるわよ」
ずっと近くで見守ってきたからこそ、リヴァイの仕草や表情から感じ取れるものもある。
それはケニーとて同じはず。
「俺は…、人の親にはなれねぇよ…」
ケニーはポツリと呟き、寂しげに目を伏せる。
リヴァイには地下街で一人でも生きていける術を叩き込んだ。
それがどんなに汚くて人の道から外れた手段だろうと、構うことなく。
その上、人の命をこれでもかと奪ってきたケニー。
一族のためと思いながらも、いつしかその目的すら見失っていた。
そんな人間が、リヴァイの親に―――?
叶うわけがない。
リヴァイの親でいられるのは、死んだクシェル、ただ一人。