第1章 地下街の三人
骨と皮―――とは、こういう状態を言うのだろう。
小さく声を出していることで、生きていることだけはわかる。
痩せこけた顔にギョロッと大きな目。
その瞳がビアンカを見上げた。
土気色の肌、伸び放題でフケがこびりつく髪の毛。
一目では性別の区別もつかない。
「誰なの?この子」
「知り合いの女の忘れ形見だ」
ビアンカは、目を離せずにいた子どもから漸くケニーに視線を移す。
「"知り合いの女"?」
「昼間に酒場でパンとスープをやったら金がなくなっちまった。この状態だ、できるだけ食わせた方がいいだろ」
「パン?飲まず食わずだったんじゃないの?この子。そんなものあげたら余計体壊すわよ」
呆れたように言うビアンカは、一人部屋の中へ戻っていく。
「ジャガイモ、もっとクタクタに煮なくちゃ。入って」
愛想なく言うビアンカの背中に向かって少しだけ笑うと、ケニーは痩せ細った子どもに手を差し伸べた。
スープを煮込むのと同時に、湯浴み用の湯も沸かす。
それを待つ間、ビアンカは子どもを椅子へと座らせた。
「名前、何て言うの?」
「……リヴァイ。ただの、リヴァイ」
リヴァイは力ない、か細い声でそう答えた。
「ふうん。リヴァイ…ってことは、男の子ね」
「うん」
「私はビアンカよ。ただの、ビアンカ。苗字がないなんて、ここでは珍しくもないけど。ケニーもそうよね?」
壁際に立って腕組みをするケニーに向かってビアンカは話を振る。
「ああ」
短く答えるだけのケニー。
ビアンカは彼のそばまで近づくと、小さく尋ねる。
「リヴァイをどうする気?」
「しばらく一緒に暮らそうと思ってる」
「え……?」
予想だにしなかったその返事に、ビアンカは目を丸くした。
自由気ままで、地下街と上の世界を行ったり来たりする男。
地下街から上へ通じる場所では通行料がいる。
どんなことをして手に入れる金かは知らないが、本人は堅気ではないとだけ教えてくれた。
そんな人間が、子どもと暮らす―――?