第4章 誰がために
「何だ、あいつら。今頃洗濯か?」
出先から戻った時には昼を過ぎていた。
ビアンカの様子が気になり、用を済ませたその足で彼女の家へとやってきたのだ。
目に入ってきたのは、家の外で洗濯物を干すビアンカとリヴァイ。
ビアンカは痛めた足を庇いながら背伸びをし、軒下に張った紐へ手を伸ばしている。
「危なっかしいな……」
ケニーが呟いたそばから、グラッと体勢を崩すビアンカ。
「!」
駆け寄ろうとした時には、既にリヴァイが手を差し伸べていた。
軽々と腕を掴み、それを引き上げる。
いつの間にビアンカの背を追い越したのか、彼女を少し見下ろしながら何か言っている。
リヴァイのことだ、また憎まれ口でも叩いているのだろう。
案の定、それに反応したビアンカは頬を染め、膨れっ面をした。
冷静になってみれば、自分よりもリヴァイの方がビアンカとの歳は近い。
二人とも平穏な環境で育ってこなかったせいで妙に大人びた所があるが、こうして眺めていると何とも年相応だ。
上の世界に生まれていたら、ビアンカもリヴァイも、斜に構えることなくもっと楽に生きられたのかもしれない。
二人のそばに自分がいる意味など、持たなくて済んだのかもしれない。
頭を過る思考に自嘲し、乾いた笑いが漏れる。
「ケニー、おかえり。どうしたの?そんなとこ突っ立って」
気づけば、ビアンカとリヴァイが不思議そうな顔をしてこちらを眺めていた。
「何でもねぇよ」
思い描いても意味のない、もうひとつの世界を頭を振って掻き消す。
ケニーは、二人の元へと足を踏み出した。