第4章 誰がために
これで「じゃあよろしく」などと返事されたとあっては、いよいよ子どもとしか思われていない証拠だ。
しかもビアンカはリヴァイを"男"と言った。
"男の子"ではなく。
こんな些細なことが、リヴァイの気持ちを満たす。
「冗談だ。ケニーじゃあるまいし」
フッと鼻で笑うリヴァイにビアンカは顔を赤くした。
弟のように可愛がっていたリヴァイに、まんまとからかわれたのだ。
恥ずかしいやら格好悪いやら…。
「リヴァイってば生意気っ!」
頬を膨らませて怒ってみても、リヴァイに気にする素振りはない。
「ビアンカでも照れたりするのか?可愛いとこあるんだな」
「もうっ!うるさい!早く出てってっ!」
脹れっ面のビアンカを尻目に、何事もなかったかのようにリヴァイは部屋を出て行ってしまった。
誰の姿もない扉をジトッと恨めしそうに睨む。
「何よ…。からかって面白がる所はケニーにそっくりじゃない……」
リヴァイ相手にこのような感情をもつなんて。
五年前ならありがたく手を借りていたかもしれない。
けれどどう考えてみたって、今は無理だ。
リヴァイは男で、自分は女―――。
何のことはない、単純な事実。
しかし意識したのは初めてかもしれない。
思いがけない感情に戸惑いながらも、ビアンカは服を脱ぎ湯の中にしゃがみ込む。
痛めていない方の左手で四苦八苦しながら、何とか一人で湯浴みを終えることができた。
「リヴァイ…」
「終わったのか?」
「うん。えっと…今度は洗濯、手伝ってくれる?」
「ああ」
外に出ると、ビアンカは着ていた服を左手でぎこちなく洗い始めた。
拙い手つきを横目で見ながら手伝いたい気持ちに駆られるが、そこはデリカシーを優先させる。
洗濯前の服や下着に触れられたくはないだろう。
リヴァイが頼まれたのは、洗濯後の服をすすいで絞ることだけ。
たったそれだけとは言え、ビアンカが自分を頼ってくれることが嬉しかった。