第3章 面影
『地下で女一人生きていくってのは、大変なことだよなぁ…』
『…そうね』
シーツに包まりながら呟くケニーに、ビアンカも相槌を打つ。
『お前んとこに来る、本当の理由』
『え?』
『最初はな、ある女に似てると思ったからだ』
『……』
『反抗的な目つきや生意気な口調がそっくり。それで放っとけなかった』
思い出したように笑うケニーに、チクリと胸が痛む。
『……そう』
ビアンカは素っ気なくただそれだけ返した。
ケニーは更に続ける。
『でもよぉ、よくよく見てたら、全然似ちゃあいなかった。お前のが感情が分かりやすいし、いい意味で普通だ。今はビアンカをビアンカとしてちゃんと見てる。だからな、妬くんじゃねぇぞ?』
気持ちを見透かされているのか、いつもの冗談なのか。
読めないからこそ、バカ正直になんてなれない。
『自意識過剰…』
『そりゃ悪かったな』
大きな手で、ポンポンと頭を撫でられる。
こうして触れられることが、どんなにビアンカの胸を煽るか。
この男のことだ。それもわかっているのだろうか…?
一体誰の面影に重ねられたの…?
ケニーはその人にも、こうして優しく触れた…?
今まで知らなかった感情が、ビアンカの中で渦巻く。
けれど、それでもいいと思えた。
自分の姿に誰かの面影を見ていたとしても、ケニーがそばにいてくれるなら。
孤独を知った後でも平気で一人でいられる程、強くなどない。
それほどまでに、ケニーはビアンカの心の拠り所となってしまっていた。