第2章 過去 ※
『……ん…』
『目ぇ覚めたか?』
ボンヤリする意識の中、男の声にハッと目を見開く。
ビアンカはベッドに寝かされていた。
起き上がろうとするが、上手く体が動かない。
『あー、無理に起きなくてもいいぜ?この部屋朝までとってあるからよ』
見渡して見ると、そこは宿泊用の宿のようだった。
ビアンカも客を取る時は、こんな部屋で事に及んだこともある。
声の主を見てみると、出で立ちは先程クローテを襲った男と同じだ。
この男がここに連れてきたのか―――。
宿泊用の宿ということは、"そういう行為"が目的なのかもしれない。
もうビアンカには、悪いことしか起こらないような気がしていた。
『私をどうするの?』
『はぁ?』
『あなたもここで私を犯すの?』
『……』
『……何でもいいわ。どうせ犯られそうになったんだもの。あいつでもあんたでも同じよ』
投げやりにそう言うビアンカに、男は乾いた笑いを漏らす。
『同じってこたねぇだろ?あんなヒキガエルみてぇな親父と、この色男じゃあよ?』
ビアンカは改めて男を見上げた。
確かに顔立ちは整っていて、クローテのような脂ぎった汚さもない。
けれど見た目がどうあれ、局部に突き刺されるものは同じなのだ。
フイッと男から視線を外す。
『ガキのくせにやさぐれてんなぁ…。何もしやしねぇよ。お前なんかに手ぇ出さなくても、女にゃ困ってねぇ』
何故だか、自分を騙そうとしている訳ではないと思えた。
『じゃあ…、助けて…くれたの?』
『まあ、そうだ』
ビアンカは腕で自分の体を抱いた。
今更恐怖で震えてくる。
もうわかりきっている質問を、恐る恐る男に投げ掛けてみる。
『母さん…は…?』
『……ありゃ、即死だ』
『……』
また震える。
恐怖ではない。
奈落の底へ突き落とされるような、悲しみで。