第2章 過去 ※
『オイオイ、お盛んだな。人殺しの次は強姦かよ』
クローテの手を掴んだ人物が、二人を見下ろしていた。
背の高いその男は目深に帽子を被っており、顔はよく見えない。
『な…っ、なんだ!?お前!!』
突然何者かにこんな現場を見られ、クローテは取り乱す。
いや、見られたから、という理由だけではない。
その男は、そばで息絶えた血まみれの死体を見ても、目の前で強姦されようとしている少女を見ても、微塵も動揺している様子はなかったのだ。
『 "切り裂きケニー" なんてダセェ名前の奴、聞いたことねぇか?』
『都の殺人鬼が…それが何…っ、……まさか!?』
『ああ。俺がその殺人鬼だ』
男はどこから取り出したのか素早くナイフをクローテの喉元に当てると、勢いよくそこを掻っ切った。
太った体がドスンと土の上に転がる。
息巻いていたのが嘘のように、クローテはピタリと動かなくなった。
『……あ……っ』
目の前で殺されたクローテを茫然と眺めるビアンカ。
母親が殺され、自分は犯されそうになり、次は犯そうとしていたクローテが何者かによって殺害された。
では、次は―――?
突如現れたこの男は、何をするつもりなのだ―――?
二人分の血の臭いが辺りに充満していた。
無表情でこちらを見下ろしてくるこの男に、恐怖を拭えない。
地獄のようなこの光景と絶望的な思考を遮断するかのように、ビアンカの意識はそこで途絶えた。