第2章 過去 ※
四年前のこと。
借金を作って雲隠れしてしまった父親のせいで、ビアンカは母子二人、貧しい暮らしをしていた。
父親が作った借金は、賭博に狂ったことが原因だ。
飲んだくれ、時に母親に暴力を振るうこともあった父親。
借金を作っていることを知った時は、何の驚愕もなかった。
ただただ、父親を軽蔑した。
そして借金をなすり付けて逃げるような男と同じ血が流れていることに、言い知れぬ嫌悪感を抱いた。
借金の返済の全ては、母親と自分の肩にのし掛かっていたのだ。
『また頼むぜ、ビアンカ』
『…さよなら』
ビアンカは客の部屋を出るなり、地面を睨んで歩く。
金ならたった今、汚らわしい行為と引き換えに手に入れた。
しかしこれも全て返済に当てなければ。
あと何回、こんなことをすればいいのだろう…。
まだ少女のビアンカは、この生活になって間もなく、男を悦ばせる術を身に付けた。
純潔を捨てたら、もう二度目からはどうでも良くなってしまった。
明日食べる物の心配をしなくてはならない、この暮らし。
借金の取り立てに怯える日々。
こんな"今"から抜け出せるのならば、誰とだって寝てやる―――。
重い足取りで家に辿り着く。
物のない部屋。
売れる物は全て売ってしまった。
金目の物などなかったから、二束三文にもならなかったが。
そんな部屋の隅で、母親が何かをしていた。
『母さん?』
『……』
母親が纏う異様な空気に戸惑いつつ、一歩一歩近づいていく。