第2章 過去 ※
着替えを済ませたビアンカはシャツを捲り、押し倒された時にできた擦り傷を晒した。
黙ったまま、それを消毒するリヴァイ。
二人で家へ帰る間も会話はなかった。
ただ四本の足が交互に土を蹴る音だけが繰り返されていた。
そして今もまた、その沈黙は続く。
「消毒する」と小さく呟いたリヴァイの言うまま、ビアンカは腕を差し出している。
露になった傷に冷たい消毒が染みる。
リヴァイは表面が乾くのを確認した後、目隠しをするようにそこを包帯で覆った。
「俺を…追ってきたのか…?」
やっとのことで、リヴァイは口を開いた。
「…うん。服をね、渡したくて…」
ビアンカも小さく返す。
「…………俺の、せい……」
消え入りそうなリヴァイの声に目を見張った。
次の瞬間、大きく首を振る。
「違う!違うからっ!私がこんな時間に外に出たからいけないの…!」
リヴァイの視線は床に向けられたまま、ビアンカを見ようとはしない。
胸が張り裂けそうになる。
涙が溢れ、一気にリヴァイが見えなくなる。
ビアンカは手探りでリヴァイの細い体を捕まえると、力いっぱい抱き締めた。
「ごめんね…!ごめんね、リヴァイ…!ごめんなさいっ……!」
ビアンカの身を守るために、初めて人を殺した。
リヴァイ自身、正に一瞬のことで記憶が曖昧だった。
けれども確かに手を掛けた感触はあった。
間違いなく、リヴァイが殺したのだ。
「自分じゃないみたいだった…。殺されそうになってるビアンカを見た途端、突然バカみたいな力が湧いてきて…。何をどうすればいいのか、わかったんだ……」