第2章 過去 ※
リヴァイが家を出てからさほどの時間を置かず追い掛けたはずなのだが、その後ろ姿は見当たらなかった。
「リヴァイって結構歩くの早いのね…」
こんな時間に外へ出るのは久方振りだった。
リヴァイたちが住む家への道は何度となく通っているけれど、今はその見慣れた風景が何だか不気味に見える。
"あの日"以来、光の射す時間帯にしか外へ出たことがなかった。
倒れた二つの体。
血に濡れた地面。
立ち込める血生臭い悪臭。
しばらくは毎晩のようにうなされた。
そんな記憶を思い起こすことが少なくなったのは、リヴァイと出会ってからだ。
できる限りのことを、リヴァイにしてあげようと思った。
亡くす苦しさは誰よりもわかっているつもりだ。
リヴァイの世話をすることで、自分の存在意義を見出せたのかもしれない。
ケニーがくれた恩を、少しでも返せるような気もしていた。
ほんの少し平穏というものを取り戻して、きっと麻痺していたのだ。
地下街に潜む悪夢に。
足早に進み、光のすっかり途絶えた道へと進路を変える。
ヒタヒタとビアンカの後を付けていた影は、そこで一気に距離を詰めた。
「…っ!?」
何者かに体を拘束され、口元を覆われる。
抵抗する隙もなく、ビアンカはその場に押し倒されてしまった。
地面に強く打ち付けられたことで、背中と後頭部には衝撃が走る。
そしてそれを上回る恐怖。
今、まともに呼吸できているのかすらわからない。
目の前の男は、血走った瞳でビアンカを見下ろしていた。