第1章 地下街の三人
リヴァイの家に辿り着くと、井戸で冷たい水を汲んでから部屋に入る。
中ではケニーが一人酒を飲んでいる所だった。
「ケニー、リヴァイが絡まれてお金取られたみたい」
ケニーは目線だけを部屋の入口に向けた。
バツが悪そうに立ち尽くしているリヴァイ。
「座って」
ビアンカに手を引かれ、無理矢理椅子に座らされる。
すぐさま、頬に冷たいハンカチが宛がわれた。
「ごめん…、ケニー」
おずおずとそう呟くリヴァイに、ケニーは酒を飲みつつ口元だけで笑う。
「ドブネズミみてぇだな。男前が上がったじゃねぇか」
「……」
「で?お前は向こうに一撃でも食らわせたのかよ?」
「……そんなの無理だ。相手は大人だし」
「んなこと理由になるか。地下で生きるのに子どもも大人も関係ねぇ。今まではママが守ってくれたのかもしんねぇけどな、俺やビアンカにまでそれを期待するな」
黙ってそのやり取りを聞くビアンカ。
子どもに向かってそんなこと、とは言えなかった。
言い方はきついかもしれないが、これが地下街の現実。
ケニーの言うことは正論。
「悪いと思うなら力をつけろ。強くなれ。無理矢理にでもな。自分の身くらい、自分で守れるようにしろ。それが怖いお坊っちゃんなら、一生家の中に篭ってるんだな」
ケニーを見上げ、唇を噛み締めるリヴァイ。
切れた口角からジワッと血が滲む。
「…強く…なりたい…」
「へえ?」
「強くなるには、どうしたらいい?」
鋭く自分を見るその目つきにニヤリと笑い、ケニーは組んでいた足を解く。
大股でリヴァイのそばまでやって来ると、小さな頭を鷲掴んだ。
「教えてやるよ。来い」
返事を待たず、ケニーは家の外へ出ていってしまう。
あっと言う間に小さくなってしまいそうなその背中を、リヴァイは慌てて追いかけた。