第1章 地下街の三人
ビアンカの家から程近い場所に、小さな古書店がある。
彼女はそこで働いていた。
店にいるのは、初老の店主とビアンカの二人。
客足はまあまあ。
本来は店主一人でも賄える店なのだが、身寄りのない境遇のビアンカを不憫に思い、温情で雇ってくれている。
「ビアンカ、今日はもう閉めるよ。上がってくれるかい?」
「はい」
夕方近く、人気が少なくなった頃合いを見て、店主はいつも店を閉める。
帳簿を閉じて帰る準備をすると、ビアンカの手にコインが渡された。
「はい、今日の分」
「ありがとう」
「気を付けてな」
「ええ。さよなら」
貰ったコインで手頃な食料を買い、その足で帰ろうと市場へ立ち寄る。
キョロキョロと品定めし、芋と野菜を手に入れた。
紙袋を抱え家へと帰る道中、前方に見えてきたのは、見覚えのある刈上げた後ろ姿。
「リヴァ…」
呼び掛けようとしたところで、リヴァイの体が泥にまみれていることに気づく。
「リヴァイ!?どうしたの?」
慌てて駆け寄り顔を覗いてみると、頬は腫れ、唇の端が切れて流血していた。
リヴァイはビアンカを見上げ、黙ったまままた地面へと視線を戻す。
ポケットからハンカチを取り出し、リヴァイの口元を拭ってやる。
「帰ったら頬っぺ冷やそう」
「……」
「リヴァイ?何があった?」
「……買い物に行ったんだ。近道しようと思って路地に入ったら、男たちに金を出せって言われて…。嫌だって言ったら殴られた…」
「……そう」
ボロボロの見た目からして、金は巻き上げられてしまったのだろう。
「取りあえず帰ろう」
ビアンカは何も物言わぬリヴァイの手を取り、並んで家へと向かった。