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第6章 ひとつ 吉太郎の語り ー焦げ白銀(しろがね)という雨垂れー



トチ狂うてなぞおらんのし。わしゃひろン役に立ちたいのし。……ただひと垂れの雨垂れが何かの役に立つとすれば、そら実に尊いことじゃなかろうか?

人ン役ン立って何になる?人ィ媚びンのか?こン腰抜け!

違う。吉よ、わしゃ媚びやせん。ただ役に立ちたいのや。例い雨垂れだっても産まれたからには何かしたいのよし。それが好ましい女相手なら、男冥利に尽きんのし。

二本差しン出のくせににやけた事吐かすなィ。雨垂れに何が出来るってんだよ?

それを考えとる。

焦ゲは桶の上に広がる暗い橋裏の景色を、透かし見るように目を眇めた。

…おひろにゃおっこちン切れ合ったらしィ(好きあっているらしい)野郎がいるじゃねェか。雨垂れンテメェの出る幕ァねェやな。

わしが雨垂れだからこそ出来る事もあるやも知れんのし。ひろに相思の者があるのは良い事よし。…橋から下りてひろの側に来たならば、なお良いんやがなぁ。

焦ゲァ歯痛起こした餓鬼みたような面ァしてぽそりと吐かした。俺ァちっと鼻白んで蛤ンなった。(黙り込んだ)

わかってんだろうよ。おひろが非人だてェのを。テメェたァ違うってのを。だから覗き込むだけなんだよ。側ィ来る度胸なんざねェんだ、あの若旦那にゃ。

おひろは蟻ンこやら蜘蛛やらが、顔ィ這っても払わねェ。弱ってるからじゃねェのァ、ちっと笑った口元ォ見りゃわかる。
鳶が輪を描くのを、いつまでだってニコニコして見てる。
向こうっ岸の野ッ原で雲雀が上がり下がりしながら雛ァ守ってんのォ見て、力ン入んねェ手の握り締めてハラハラしやがる。
餓鬼ィ連れた親が通りゃ嬉しそうに何時までだって見送って、年寄りンヨタヨタ歩くのォ息を詰めて見守る。
橋ン上で若ェふたりが睦まじく語ってんのを聴きゃア、テメェん事みてェに嬉しそうに目を閉じやがる。

晴れりゃ笑い、風が吹きゃ嬉しがり、雨が降りゃ満足そうに息を吐く。

笑ってるバヤイ(場合)じゃねえだろ?苦しいンだろ?苦しかねえわきゃねぇ。なのに何なんだよテメェは。

何でコイツが人なんだ。
からっきし向いちゃねェくせに、何だってそんなモンに生まれ付きゃがったンだ、間抜け。

焦ゲ、このボンクラが。

おひろン惚れ込むのもわからァ。
わかるけどよ。

オメェ、何ィする気でいるンだえ?















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