第4章 弥太郎河童
弥太郎は女童子をそのまま路六の巣穴に連れ込んだ。
川辺リに穴を掘って造った路六の巣は、中に入ると存外乾いて温かい。
頻繁に路六と酒を呑み交わす弥太郎はその居心地の良さを知っているから、ぐずぐずに濡れた女童子をそこへ寝かす心積もりで路六のところへ顔を出したのだ。
「兎に角寝る。俺も疲れた。鉄砲水の瀬を泳ぐのは流石に難儀だったわ」
枯れ草を敷き詰めた寝床に女童子共々さっさと横たわり、弥太郎はパチンと黒目しかないドングリ眼を閉じた。
「おいおい。それじゃ俺は何処で寝りゃいんだよ。勝手なヤツだなぁ」
路六が短い前足を器用に組んでしかめっ面をする。弥太郎は知らぬ顔で寝返りを打った。
「手下ンとこに行けよ。何ならしばらくそっちにいろ。俺ァコイツが水ン中に慣れるまでここに住まわせて貰うからな」
慣れる?人が水の中に?
路六は首を傾げて弥太郎の濃い緑の背中を眺めた。
「……やっぱり無理ンとこに連れて行けよ。今ならまだ何とでも誤魔化しはきくぜ?ソイツはお前の塒じゃ生きてけねえもの」
「だから慣らすってんだろ?うるせえな、早く行っちまえよ」
「人が水に慣れるなんてこたねェんだ。諦めろ」
路六の言葉に弥太郎が振り返った。犬や狐に似た獣面に怒りの色が浮かんでいる。
「無理は今まで何人も人の女を娶って塒で一緒に暮らしてたじゃねえか。俺に出来ねえこたァねえ」
「出来ねェよ。お前は神じゃねえんだ。鉄砲水も打てねえし、人を水ン中で生かすことも出来ねえ。神通力なんか使えねえだろ?」
「うるせえな。やってみなきゃわかんねえだろ」
「やってみんでもはっきりしてらァ。どっちみち無理にバレたらエラいことになるぞ?みんなとばっちりを食う。よく考えろよ、弥太郎」
「知らねェや。早く行けって。しつこい爺め」
「…俺は逃げるぞ、手下を連れて。荒れ凪にも声をかけとくからな」
難しい顔で言う路六を弥太郎はじろりと睨みつけた。
「勝手にしやがれ。臆病者のケダモノが。巣は貰うからな」
「ヤレヤレ…」
女童子をじっと見ている弥太郎に溜め息を吹き付けて、路六はぽつんと呟いた。
「どこがいんだか、そんなヒヨッコ…産まれてまんだ四、五年てとこか?惚れんならもっと面倒のないヤツにしろよ」
「馬鹿言うな!旨そうだから連れて来ただけだ!でっかくなったら食らうんだ。分けちゃやんねえぞ!」