第11章 斎児ーいわいこー
「青瓢箪を連れて来たのも道理の野郎だな。何考えてやがんだか」
弥太郎が忌々しげに舌打ちした。
「兄弟揃ってロクなもんじゃねえ」
神様相手に随分な言いよう。しかもひとりは我の主なのに。でもこれがこの河童なんだろう。
それにしても。
「絡まれるというのはどういうことです?何をしたんですか、厂暁さんは」
そんなことをする人ではない、と言いたいところだけれど、恋しいあの人は惑いが多い。一言で言えば優柔不断。丁寧に言えば優しさ故に物事をややこしくしがちだ。おまけに言わなくていいことをいやに素直に口にするきらいがある。
逐電したあの人の負い詰まった顔。
取り返しがつかなくなったと思い決めたに違いないあの様子。
あの勢いだといっそどんな目にあっても仏罰と思いかねないが、それでなくとも負い目を負っている気でいるのに更に罰を被る真似をしようとも思えない。
あの人の、笑うと困ったようになる顔が思い浮かぶ。
見えないものを見ても怯えながら困った顔をするあの人は、根が純粋で優しい。だから、思ったことを呑み込みきれないことが多々ある。自重すればしたで回り回って言わないでいいことを言ってしまう。
あのややこしい性はどうあっても変わらない気がする。
「絡まれてるったって、ヤツが悪さをしたわけじゃねぇ。有り体に言やぁ、誰も彼もアイツをいいように使おうとしてるってとこだ」
何が楽しいのか弥太郎が笑い含んだ声で言う。
「そのせいでムレに絡まれてる。ハハハ」
ああ。成る程。また巻き込まれているのね。
私のときのように。
それにしても楽しそうに笑うこと。全くこの河童。
「私は何をすればいいの?」
背骨がビリビリ震えた。風を感じるより先に凄いような葉擦れが耳を塞ぐ。
弥太郎が上を見上げ、辺りを見回し、腰に手を当てて私を見て目を眇めた。
「ムレがおめぇに会いたがってんだ」
轟々と鳴る葉擦れに負けないよう、弥太郎は大声を出す。私は風に嫐られる髪を押さえながら耳に手を当て、それを聞き取る。
「私に?」
口から漏れた掠れ声は我ながら情けないほど小さくて、あっさり風に拐われて弥太郎には届かなかったろう。けれど弥太郎は大きく頷いて私に手を伸ばした。
「安心しろ。おめぇと、ついでの厂暁も悪いようにゃならねぇよ」