第11章 斎児ーいわいこー
私をサクに引き合わせた路六も、サクが山梨の汁だと褒める荒れ凪も同じ無理の眷属で、この弥太郎とは呑み仲間らしい。
「これは里で求めた羊羮だ。二日酔いには懐中汁粉が効くと聞くが、生憎そんなものは持っていない。もし甘い物は好まないと言うのなら、遠慮なしに突き返して貰いたい。私は酒をやらぬ代わりに甘い物に目がないから、これは取って置きなんだ。同じ小豆の誼で効けばよいと思って…」
未練がましく言い開くと、弥太郎はそっぽを向いて鼻を鳴らした。
「俺は酔い覚ましに甘物を食ったりしねぇよ。手前で勝手に呑んだんだ。皿がぶち割れそうに痛んでもそりゃ自業自得よ。辛抱するのが筋だろが。阿呆らしい」
それは随分潔いことだ。これで泣き言を言ったり八つ当たりしたりしないでくれればより一層潔いのだが。
溜め息を吐くと聞き咎めた弥太郎が声を尖らす。
「文句くらい好きに言わせろ。何が楽しくて生臭坊主と連れ立って歩かにゃなんねぇんだよ。サクの野郎、下らねぇ頼み事は皆俺に持って来やがる。こん畜生」
ということは、下らなくない頼み事は路六や荒れ凪に行くのだな。然もありなん。
「山をほっつき歩くのは性に合わねぇ。そもそも俺は水の性(しょう)なんだからよ。土の上を歩くようにゃ出来てねんだよ」
ぶつぶつ言いながら歩き出した弥太郎の足は、馬鹿に長くて強そうだ。並外れて高い背丈も手伝って一見ひょろりと頼りないが、よく見れば足同様長い腕も逞しく引き締まり、河童が相撲を得意にするというのに間違いはないのだろうと思わせる。言わせて貰えば何の性であろうと、弥太郎の方が私より余程土の上を歩くのに向いた頑丈な体をしている。
「男とぶらぶら歩いたって、面白くも何ともねぇや。詰まんなくて干乾びちまうわ」
それは私もそう思う。何の因果でぬるぬるした酒臭い人外と山を歩かねばならないのか。こんな弥太郎が連れでは、それでなくても辛い山道がますます険しく思われるばかりだ。
「ガンギョウとかいったか」
不意に名を呼ばわれて甲羅の背中に頷くと、それをチラリと振り向いた弥太郎は皿を撫でて腕組みした。
「坊主が寺を捨てて逃げ出すなんざ、世も末だなぁ」
「………」
言い返したくて開いた口が、力なく閉じた。
「無理が川を捨てて、道理が里を捨てるようなもんだろ?情けねぇ話だぜ」