第11章 斎児ーいわいこー
「怖がんなよ。いちいち怖がられてちゃ、それこそ付き合い辛くて悪ぃや。俺はこういうもんなんだよ。今んとこ。仕方ねぇんだ」
綺麗な顔がカラカラと笑った。真白な歯並びに八重歯が覗く。見苦しい。
「お陰でヨチヨチ歩きのガキのうちから村も追い出されちまってよ。もうずっとここで暮らしてんだ。山のことなら何でも知ってるからよ、安心してくれていいぜ」
小さなうちに村を追い出されて、今幾つなのだろう。十六七に思えるが、綺麗すぎる見目のせいで実齢より上に見えるのかも知れない。
「俺はサクってんだ。呪いが解けて男か女かはっきりしたら、サクタロウかおサクになんだろうけど、今ンとこただのサクさ。名字とかいうのはねぇよ。あんのかも知らねぇが、わかんねぇ。よろしくな、ガンギョウさん」
サク。
「サクとはどう書く?」
尋ねたら呆れ顔をされた。
「サクはサクだ。どうも書かねぇよ。面倒臭ぇこと聞くなぁ」
すんなりした黒髪の毛先を玩びながら、サクは眉根を寄せて肌が泡立つような唸り声を上げる。溜め息したらしいが、何とも厭らしい声だ。
「坊主なんてのはうるせぇモンだから気を付けろって聞いたけどほんとだな。人の名前にアヤつけるんじゃねぇよ」
「アヤなど…」
「うるせぇな。俺はこれから炭焼きだ。黙ってそこらに座ってじっとしてろ。邪魔したら追ん出すぞ」
「今から炭を?時がかかるのでは」
手引きしてくれる話はどうした。長居はしたくない。思わず浮きかけた腰を何とか落ち着ける。ここまで来るのにも苦労したのだ。サクを怒らせて放り出されでもしたら、右も左もわからない深山で進退極まってしまう。
…いや、それもまた良しか…。
体から力が抜けた。そうだな。それも悪くないかも知れない。
「三日待ちな。暇なら腐るだけあんだろ?寺を追ん出て来たんだってな」
腰まである長い括り髪を無造作に払いのけ、サクは底光りする目でこっちを見た。
「坊主だか何だか知らねぇけどお前も食み出もんらしい」
サクの言葉が胸に刺さる。
思わず目を伏せると、サクは眉間の皺を消して、穏やかな声を出した。そうすると耳障りな声が僅かに聞き易くなる。