第10章 丘を越えて行こうよ
「威張る?俺がどこで威張ったよ?ホントのこと言っただけだろ」
「ホントのことってのはね、言いどころを間違えると威張ってるみたいに聞こえたり、人を責めてるみたいになるんだからね!そういうとこ考えて話すのが大人!」
「ホントのこと言われて怒り出すのも大人ってか?ねーわぁ。お前みたいな子供にもホントのことちゃんと指摘してやんのが大人の大事な御勤めだろ?違う?」
「ばぁっかじゃない?アタシは子供もいる立派な大人の女です。言いがかりつけてんじゃない!」
「…大人はそういうことで滅多に言い争わないと思うんだよ」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「そうだそうだ。お兄ちゃんは黙ってなさい」
「加美山。お前にお兄ちゃん呼ばわりされる覚えはないよ」
「そりゃな。お前が俺のお兄ちゃんだったら、俺はお兄ちゃんをお兄ちゃんとも思わないようやヤツになっただろう。お前がお兄ちゃんでなくて良かったよ。まあどのみち俺には兄弟なんかいないけどな」
「…本当に一言余計だぞ、お前…」
「いいからほら、早いとこ書割の準備に行きなさいよ!お兄ちゃん抜きで酔っ払いが作業始めてるよ?水くらい加奈子さんに任せたらいいじゃん。全然問題ないでしょ。お兄ちゃんてさ、最近加奈子さんに異常に過保護だよね。変じゃない?」
薮蛇だ。
敏樹がじっとこっちを見ている。加美山が物凄く興味深そうに目を輝かせてるのがまた何とも言えない。
「…一也、お前さ」
疑心暗鬼に囚われた敏樹が口を開く。
「加奈子とお前って、もしかしてさ…」
「付き合ってる?」
言いにくそうな敏樹の後を遮るように引き継いだ美佳子がズバリ言った。
「ブッ、は!?マジ!?嘘!?何ソレ!?」
噴いた加美山が細い目を剥いて喚く。
「コイツと加奈子さんが!?付き合ってるって!?え?この裏なり瓢箪と加奈子さんが?嘘でしょ!?ちょ、待て待て待て。そんなん俺は認めないよ!認めないからな!ズルいぞ一也!」
「うるせえぞ加美山。しょうがねぇだろ。こういうことは理屈じゃねんだから」
悲痛な顔を俯かせる敏樹の肩を美佳子がパンと叩く。
「そんな言い方ないでしょ。彼女いない歴年齢のお兄ちゃんにしちゃ信じられない快挙じゃない。凄いよ、お兄ちゃん」
「いつの間にそんなコトになったのよ?あ、ヤダヤダ、ちょっと俺マジで泣きそう…」