第10章 丘を越えて行こうよ
敏樹の店には何となく足が向かず、結局何がどうなっているのか、サッパリわからない。
どうせ元から部外者だし。
問題の真ん中に詩音はいない。そこにいるのは暫く関わらないでいる間にそれぞれ勝手に大人になった幼馴染三人だ。
「ん?」
ふと、右の斜め後ろ、視界のぎりぎり辺りに小さな人影があったように思えて詩音は足を止めた。
「何?どうかした?詩音ちゃん?」
「うん?いやー」
何だ、また詩音ちゃんに戻ったな。さっきのしぃちゃんてのは無意識か。
振り向いて誰もいないことを確認して、詩音は苦笑いした。
「子供がいたかと思った。気のせいみたい」
「止めてよ。お盆も近いんだから、そういう話はさ」
顔を顰める一也に詩音も顰め面をする。
「別に怖がらせようとして言ったんじゃないわよ。ホントに子供がいたかと思ったの。そこんとこに…」
「ホントじゃもっと怖いじゃないか」
「だーから気のせいだっつったでしょ!大体まだ夜の八時だよ?子供がいたって別にそんな変でもないじゃない」
「あのさ。ここはしぃちゃんが住んでたとこと違うんだから、お祭りか何かじゃない限りこの時間子供がうろうろしたりしないんだよ」
「あっちでだってそれなりに変よ、それは」
「話が違くない?」
「そんなに変じゃないって言ったの!全然変じゃないとは言ってないでしょ!?」
「おっきな声出さない。寝てる人を起こすよ?」
「起きたらいいじゃん。こんな時間から寝るなっての。電気でも止まってんのか、そこんちは」
「詩音ちゃんちは電気止まってんの?だからおじちゃんおばちゃんは早寝ってこと?」
「…いや、まあ、うちのことは置いといてだ」
「そう。ついでによそんちのことも置いときなよ。お年寄りだけの世帯も少なくないんだから」
「年寄りは早寝ってのは偏見だと思うぞー」
「詩音ちゃんはそうだろうね。年取っても元気に夜更かししてそうだよ。付き合うのが大変だな」
「別にアンタに付き合って貰うことないわ。バカ言ってないで早寝の彼女でも見付けて存分に健全な夜を堪能しなさいよ。おえ」
「…おえって何」
「いやー、早寝んちは子沢山だって言うじゃない?」
「詩音ちゃんが一人っ子なんだからそんなこともないと思うよ?」
「いやだからまあ、うちのことは置いといてだ」
「はいはい」
「加奈子さんて早寝なの?」