第10章 丘を越えて行こうよ
「だろ?」
「でも出掛けてたじゃん」
「…ぐ」
「…ふぅん…。ホント一也くんも大人になったわ」
「俺だって大人だ」
「だから?それ言ったらアタシこそ大人だわ。結婚して離婚までしてんだからね」
「…開き直るなよ。悪かったって」
「何で謝んの。ホントのことじゃん」
「そのホントのこと言われて怒ったくせによく言うよ」
「他人に言われたら腹が立つに決まってるでしょ。自分で言う分には全く問題なし」
「止めろよ。ずけずけ言ってんの聞くと、こっちの胸が痛むだろ」
「け。デカい体して繊細ぶんなっつの」
「ぶってんじゃなく繊細なんだよ、俺は」
「あははははは」
「………何で笑うんだよ」
「別に。何となく」
「…お前なんかの何処がいんだろうなぁ…?」
「お?何だ?何処かの誰かが早くもアタシを見初めちゃったか?目の高いヤツがいたもんだ」
「見初めたとか目が高いとか低いとかじゃなく、多分ただの刷り込みか強迫観念だと思うんだよ」
「は?何だかよくわかんないけど、さてはアタシを腐してんな、お前」
「いだッ、バカお前、スカート履いて蹴り入れる女があるか!止せ、はしたねぇ!」
「スカート履いて蹴り入れる女があるかって?そんなんそこら辺にゴロゴロしてるわ。ちゃんと目ぇ開けて生きてるか、お前。半目開きで見たくないもんは見ないで年取ると、頭がお花畑になっちゃうぞ?世間ではそういうのを老害と言う」
「…絶対コイツは止めといた方がいい。不幸せになる」
「あ?誰が不幸せになるって?」
「誰も彼もだ。口悪いのと手早いの直せ。そんなんじゃ男出来ねえぞ」
「要らねんだよ、男なんか。むしろ絶滅してくれたらスッキリするわ。お前らは博物館でドードー鳥やらサーベルタイガーなんかに囲まれて展示されたらいいんだよ。サル目ヒト科節操なし属で、何ならお前を代表としてロンサム・ジョージの隣に置いてやる。輝くぞ、お前の男らしさが」
「そんな輝きは要らねえし、俺の男らしさもロンサム・ジョージの前じゃ霞んじまうからお断りする」
「寡夫のゾウガメにも劣るのか、お前の男らしさは…」
「可哀想なものを見るみたいな目で見るなよ。ムカつくな。言ったろ?俺にはちゃんと彼女が…」
「それって一也の助手席で恥ずかしそうにはにかんでた加奈子さんのこと?」