第1章 バルバッド編
「私はアラジンの気配を感知できるからな!」
シンドバッドから遠ざかるように後ろへと下がれば、すぐさまアンジュはマントの下に隠してあった翼を出した。
「残念やったなシンドバッド!上空から行ったら警備も通れるやろ!」
「くそっ!」
だがそれで諦めるシンドバッドでは無い。
金属器を一つもつけてない身とはいえ、元々備わっている身体能力は常人よりも遥かに上である。地面を力強く蹴りつければ、浮上したばかりのアンジュの体を捕まえるのは造作も無いことだ。
「うわっ!足に捕まるな!ちょっ、落ちる!!」
「ここで逃げられたらチャンスは無いに等しい!」
「諦め悪すぎるだろ!ほんまにあかんて!っああ!もう!!」
2枚しか出していなかった翼は、シンドバッドの体重をプラスした事によって耐え切れそうにない。仕方が無いと、アンジュはもう2枚翼を取り出した。合計4枚の翼は力強い羽ばたきを持って、2人を上空へと運んだ。
「相変わらず凄いな」
「お前…後で覚えとけよ」
落ちないようにといつの間にかアンジュの腰あたりを抱きしめているシンドバッド。こころなしか、際どいところを触れている気もするが、アンジュは何も考えずにアラジンの居るであろう場所を目指した。
「それにしても…俺より年上とは思えない体つきだな…うん、良い」
「おい変態。突き落とすぞ」
後で殺そう。アンジュはそう心に誓った。
・・・・・
城内のテラスへと降り立てば、案の定周りにいた衛兵は何事かと警戒心を持ってアンジュへと近づいてきた。
初めは武器を構えていたが、アンジュの隣に立っているシンドバッドを見るとその手を下ろした。
「俺がいて良かっただろ?」
「いざとなれば魔法で眠らせてたから大丈夫やし」
「それは後々めんどくさいからやめてくれ」
「今ならなんとアンジュちゃん直々、お得な記憶消し付きの大サービス!」
「俺の立場も考えてくれ!衛兵が一気に戦闘不能なんて事になったら俺の名も安くなるだろ!」
ギャーギャーと騒ぐ2人に、いつの間にか衛兵が連絡を通していたのだろう。ジャーファルやアラジンなどと言ったお目当ての側近がやってきた。