第1章 バルバッド編
「いつの時代も人間は醜いな…」
あの金銀財宝は全て先程の男の所有物である。それを知らずに、両の腕に抱え込もうとする姿は何とも滑稽だ。お零れを頂戴とする民衆にもある程度行き渡っているところを見る限り、ここ数日はこのあたりの貧しい人々も潤うだろう。
「そして美しく、強い…だからキミは人間観察を止めないのだろう?」
「げっ…わざわざ避けて来たのに…」
「えっ、俺を避けてたの?」
「裸じゃない所を見る限り、ジャーファル達には会えたみたいだな」
「何故それを!?」
今一番会いたくない人物に巡り会ってしまったアンジュは、それはそれは明らかに嫌そうな視線でその人物を見た。
「シンドバッド…なんでここがわかったん?」
「キミのその独特な喋り方はいつ聞いても飽きないな!」
「はよ喋らんかい!」
アンジュの反応にクスクスと笑うシンドバッド。男そのものの本質は見抜けないが、アンジュをからかう事に楽しみを覚えていることには間違いがない。
「ああ、とあるマギが不思議な力を感じると言っていたものだから、つい興味が湧いて来てしまった」
「それってアラジンの事?」
やはりアラジンは先にシンドバッドに出会っていたようだ。先程のオアシス騒動もそれで間違いがないだろう。しかし、この男と巡り会ってしまうとは、運命とは難しいものである。
「知ってるのか?」
「もちろん!だって私はアラジンに会うために降りてきてんからな!」
まだ見ぬ幼いマギを見守るという使命の元、下界に降り立った天使に懐かしみを感じていたシンドバッド。アンジュの性格を少しはわかっているつもりである彼は、一つの提案を設けた。
「良かったら俺がアラジンの元へ案内してやるぞ」
「…あんたに借りを作るとか嫌な予感しかせんねんけど…」
「そうだな…礼はシンドリア王国に住んでくれるだけで良いぞ」
「それが一番嫌なんですけど!?」
人の本質を見抜き、上手いこと手玉に取り、それを利用する事に長けた男。それがシンドバッド。完璧なる王の器である彼が目の前に立つと、天使であるアンジュですらその圧倒差に平伏しそうになるが、そうなるわけにもいかない。