第4章 極
平野からの手紙を読んだ一期は、少し息をはいた。
「君達に対しての手紙がないことだけが、少し残念だね」
私は言ったが、一期は首を横に振って
「それでよいです」
そう言った。
「……………よく解らないな。君の説明が聞きたい」
「今日はやけに意地悪ですな。解らない、など主の口から聞くとは思いもしませんでした」
「それでも、聞きたいのさ」
私のわがままに、彼は困ったような顔をする。
「私のわがままが聞けるなんて、君は世紀の色男の才があるよ」
「嬉しくない才ですな。」
一期はじとりと私を見ながら言った。真面目な心は、わがままを素直に聞くわけにもいかないらしい。
「いいじゃないか。明日からは、また忙しくなるなる」
「っそれは、………………………………………主にだけ送られた手紙ということは、その手紙には平野の、刀としての平野が書かれているのです。」
長い長い沈黙をもってから一期は訳を話した。
(この反応は……………本当に情報源を見つけておかないといけないね)
明日からは、また忙しくなる。この情報だけで察するというのは、無知でない証拠だ。
私はもう一つの事案に頭を悩ませていたが、一期の顔を見てそれをやめた。
「刀として、最も大切なのは主。それを平野が忘れていなかったこと。兄として、嬉しく思いました。」
「そうか。」
「主にだけ送られた手紙。それをどうか、忘れないでやってください」
「忘れないさ。」
私は即答した。
「忘れるわけがない。死んでも、魂が覚えている」
手紙を一期から受け取り、それを胸に抱き締める。
そして、一期と顔を見合わせて私達は笑った。
「それで、情報の出所はどこだい?」
次の日の朝。私は座敷にて皆に尋ねた。
情報についての言及が上がらないことから、既に全員に情報が行き渡っていることは確かであった。
ただ、肝心の出所はあがってこない。
「昨日の近侍、部屋の前を通った刀剣、文を届けてくれた者、考えれば答えは出るんだよ。ただね、それでも君達の口から真実を聞きたいわけさ。私という奴は」
私は肘掛けに肘をついて、更に頬杖をついた。
私が軽く指でリズムを取り始めると、にわかに座敷内がざわつきだす。
やがて、ゆっくりと手を挙げる者がいた。
予想の中で一番以外な人物であった。
「膝丸、以外だな。君か」
気まずそうに手を挙げられて、私としても驚く。