第4章 極
「すまない、主。その、文の表に何も書いていなかったものだから。怪しい者からでは困ると思い、中を確認した。」
「……………その割には綺麗に閉じてあったのだけれど」
気になったことを尋ねてみる。
「他の刀剣数名に手を借りて糊で綴じさせてもらった。」
「…………………………手を貸した者。名乗りでなさい」
燭台切、鶴丸、歌仙、というなんとも変わった面子が手を挙げたところで、私はため息をついた。
「すまない。俺はどんな罰もうける。だから、他の者は許してくれないか」
必死の頼みに、私は懐の手紙を取り出した。
政府からの手紙だ。
それを、畳の上に放り投げて私は答える。
「別にね、こんなものは見られたって困らないんだよ。どうせ、人に見られてもいいことしか書かれてなどいない。ただね、時にはまずいときもある。罠の場合もね」
「罠?何故、俺達に罠が………?」
「まさか、主を陥れようとする者がいるのですか!!」
「長谷部、落ち着きなさい。罠というのは、君達に対するもので正しいよ」
話に乱入してきた長谷部を宥めて、私は語る。
「政府というのは、大きな組織だ。人が集まる場には、それこそ昼ドラの様なことが山程ある。」
「あいじん、わいろ、ごうりんですか!?」
「……………わかった、百歩譲って最後の一言はのみこみなさい。今剣、君の口からそんな言葉を聞きたくない」
私は頭を押さえて、わかりやすく言葉を紡ぐ。
「政府にとって、必要なのは駒だ。駒をより上手く動かすためなら、心なんていらない。悲しいけれど、誰かの命と秤にかけてそれを選ばなくてはならない時が、政府にだってある。」
私は続ける。
「私は、それを理解した上で出来ることをするつもりだ。彼等のいう利用される駒を全力で演じる事もする。ただ、それを君達にまで押しつけるつもりはない。」
「知らないままでいれるときには、そうありなさい。」
(冷たい言葉だなぁ)
座敷を去って、私は自室にいた。
らしくもなく、焦っていたのかもしれない。
人は怖い。誰もが一度は呟く戯れ言の世迷い言だ。
だが、紛れもない事実でもある。
人は優しく、強いけれど、それ故に怖い。
大切なものの為には、壊せるものが沢山ある。
私もまたその一人だ。
だが、だからと言って人に絶望などしない。
人の愛を知っているからだ。