• テキストサイズ

【刀剣乱舞】檜扇の伝記

第5章 雨


のんびりと茶をすする時間は、不意に訪れた足音によって終わりを告げた。
私は、騒がしくなってきた廊下に軽く目を向けて、ゆっくりと立ち上がる。
「鶯丸。悪いけど、少し席を外すよ」
「あぁ。構わない」
鶯丸の返事を受け取り、私は襖を開けて廊下を覗いた。
見れば、廊下を曲がっていく影が二つ。
私は彼らを追ってみることにした。

「あー、やっぱり枯れちゃってる。新しい花、まだ用意できてないんだけどな」
「……………兄弟が水を換え忘れたからじゃないのか」
「枯れた理由?………そんなこと言われてもなぁ。やっちゃいました!としか言えないよ」
「………あれ、花、やはり枯れてしまったのかい?」
玄関口。花瓶を囲んで話す二人に、私は話しかけた。
「檜扇様!?………えっとー、これはー」
いきなりの私の登場に、花瓶を持って鯰尾が言葉を濁らせる。
私はそれを見て、今週の水換え当番を思い出した。
「遠州中の一期の代わりかい?」
「あぁ。だが、頼まれた兄弟が忘れていた」
「うっ………ご、ごめんなさい檜扇様」
枯れた花を見て、鯰尾が肩を落とす。
「いや、いいんだ。そろそろ限界だったのも確かだからね。やはり、活けるよりも育てた方がいいかな」
私が呟くと、鯰尾が顔をあげる。
「それって、花の世話をするんですか?」
鯰尾の顔がパッと輝く。
私は頷いて、「何を育てたい?」と聞いてみた。
「俺は朝顔がいいです!!絶対朝顔!」
「朝顔か、いいね。靴箱の上には置けないけれど、傘立ての横に置けば綺麗そうだ。骨喰は?」
「別に、なんでも構わない。」
らしい答えであった。
「だが、聞きたいことがある」
「ん?」
以外な申し出だ。私は内心驚きながら骨喰を見る。
「なぜ、わざわざ植えるんだ?別に、今まで通り誰かが花を摘んでくればいいと思うのだが」
骨喰は、来たときよりもずっと好奇心が旺盛になった。私はそれを嬉しく思いながら、落ちた花弁と花の茎を持つ。
「そうだね。なら、見ててごらん」
「?」
「何するんですか?」
私は花弁に息を吹きかける。
一瞬、風が吹いたような感覚が身を撫で、二人がハッとしている間に、それは上手くいった。
「わぁ………!」
「!」
花が元に戻ったのである。
再び返り咲いた花は、積んできたときと正に同じ姿だ。
/ 34ページ  
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:なごんだエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白い
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp