第3章 演練
「俺、悩んでたんだよな。どうすればこいつらと仲良くなれるのかって。」
呟く青年は決して仲が悪い様には見えない。
ならば、向上を目指す心か。
「あげてみればいいのさ。無くならないことに気づけば、ずっと幸せになる」
私は彼に頷いた。
「愛。まるで雲をつかむような話だ。」
男が言った。
「けれど、貴方も愛は解るでしょう?」
娘の挑発に男はムッとする。
「解っている。解った上で、妙な話だと思ったんだ」
彼の言うことが解らない訳じゃない。訳じゃないから、私は続けた。
「簡単なことだよ。愛は与えれば増えるものなんだ。増えるのなら、それは力になる。そうだろう?それに………」
「負けたままでいいのかい?」
私のその言葉は、見事彼の闘争心に火をつけたらしい。
彼はカッと、眼をつり上げると詰め寄ってくる。
「いいだろう!お前がそのつもりなら次は負けない!覚悟しておくんだな!!」
「ふふふ。楽しみにしているよ」
私は本当に楽しみだった。
「小娘!お前の名は!」
「うん?あぁ、檜扇。私は檜扇だよ。」
「俺の名前は翔だ、覚えておけ!」
怒鳴る彼に、私は頷き返した。
その後、私達は様々な話をした。
今までに起こったハプニング、失敗、成功。
ふと横目で見ると、私の大切な刀剣達も他の本丸の刀剣とスキンシップをとっていた。
(あぁ、これが演練の形なんだな)
何だかんだ楽しそうな顔を見る限り、よい経験になっているようだ。
来てよかった。私は心からそう思う。
こうして、私達の初演練は終わりを告げた。
「楽しかったね」
私は帰りの道で呟いた。
「はいっ!あるじさま、またつれていってくださいね!」
天真爛漫の四文字がピッタリな笑顔で今剣が笑う。
「そうだねぇ。まぁ、連れていけと駄々をこねている子が多いからね。暫くは難しいかも」
「えー。うーん、でも岩融がいくときにはつれていってくださいね!」
「そうだね。それは約束してあげよう」
「わーい!」
今剣の言葉を聞きながら、私はふと前方に菓子屋を発見した。
「本丸の皆に菓子でも買って帰ろうか。」
私の提案で皆も菓子店に気付いたようだ。
「わー!おかし!」
「い、いいんですか?主様。」
「もちろん。さぁ、誰か菓子屋が開いているか確認してきてほしいな」
私が言うと、今剣が五虎退の手を引いて走っていく。