第3章 演練
その後の結末は言うまでもないだろう。
「俺、なんで来たんだろう………」
げんなりとした様子で青年が呟く。
私はピースサインをつくって見せて、腕の中の今剣と共に彼を見下ろした。
「はははっ、これもまた経験だよ。青年」
「蚊帳の外だっただけの思い出だろ」
何となくキレッキレの突っ込みを入れる彼は将来も期待が出来そうだ。
一先ず私は、蜻蛉切に向き合う。
「今日の誉は君だね。よくやったよ、蜻蛉切」
「っは。ありがたきお言葉。」
「真面目だね。君ってやつは」
何時ものように彼の頬を撫でてやると、視線が突き刺さった。
「なんだい?」
ガン見してくる審神者達に、私は聞き返した。
「貴様………よもや、刀剣とそういう関係を築いているのではあるまいな。」
男に言われた言葉に、私は思わず今度は堪えもせずに吹き出した。
「っ、く、あっははははは!!」
私が爆笑すると、それにつられたのか我が刀剣達も笑い出す。
笑われた彼は、驚いたように眼を丸くした。
もう怒ることもしない彼に、私は止めの一言を放った。
「愛しているよ。もちろん、彼等全員をね。」
「そ、それは………男女の」
「どうだろうね。私の愛は、私の全てなんだ。」
「そこには、恋愛、敬愛、仁愛、寵愛、慈愛、家族愛、友人愛、愛。全てが含まれているさ。当たり前だろう。私の全てをあげているのだから。」
私はあっさりと言い切って、まだ意味を理解しきれていない彼等を少し笑った。
愛は自由。
どの愛を与えればよいのかと悩んだ末に、私は一つの答えへとたどり着いた。
それは、全ての愛を与えること。
愛はあげてもなくならない。これは、私が審神者となって知った最も尊い事だ。
あげてもなくならないのだから、私の愛は底無し沼だ。
「愛に限界をつけるのは愚か者のすることだよ。恋愛と、全てを含めた愛。どちらが大きいかなんて、言うまでもない。」
今剣を抱え直して、口を開く。
「大切な人には、より多くのものをあげたいじゃないか。そうだろう?」
私の言葉に真っ先に反応したのは、驚いた事に青年であった。
「あぁ、なんか納得だわ。」
「ん?君もそう思ってくれるかい。」
「うん。何となく。………そうか全部あげればいいのか。」
青年は何処かスッキリとした顔で言うと、傍らに寄り添っていた前田の頭を撫でた。