第3章 演練
「あのね、演練相手に名前は教えなくてもいいのよ。」
無知な子供を諭すように言われ、私は思わず笑いそうになった。なんて、可愛らしいのか。
「それは、政府の方から言われたのですか?」
「えぇ。もし、他の本丸の刀剣に名を聞かれたら危ないでしょう」
「そうですか。」
(政府は相変わらず、馬鹿の宝庫か)
何とも、間抜けな話である。
私は、彼女に笑顔を向ける。
「けれど、名を名乗るのは礼儀なので。自由に呼んでください」
「……………まぁ、貴方がそう言うのならいいわ。ところで、貴方………檜扇さんは花が好きなのね。カルミアの名は、中々でてこないわ。どうかしら、時間がある事だし庭を見ていってくれない?」
彼女の誘いに、私はのることにした。
何だかんだで、内の子達は花が嫌いじゃない。良い機会だろう。
「ぜひ。」
彼女の庭は立派なものだった。
手入れが大変そうではあるが、彼女は完璧主義なのだろう。どこをどう見ても、ボロなんか出てもこない。
その内に、私は五虎退と今剣の手を引いて心から花を楽しんでいた。
「あるじさま!このはなはなんですか?」
「空木だね。立派なものだなぁ」
「綺麗です」
そうやって花を見ていると、不意に鋭い視線を感じ振り返ってその主を確認する。
すると、花壇から離れた場所に男性が刀剣を引き連れて立っているのが見えた。
「彼は?」
「うん?………あら、もう来てたのね」
この本丸の主である娘に尋ねると、呑気に彼女はそう言った。
どうやら、彼が待っていた内の一人らしい。
演練は四っつの本丸でやるものだという事は知っているので、あともう一人審神者は来るはずだ。
「少し私も行ってくるから、ここで待ってて」
五虎退と今剣の手を離して、鋭い視線を向けてくる男を見た。
娘の後を追って、男の所まで歩む。
「ふん、こんな子供も審神者なのか。やはり、対した事などないな。審神者など」
これは、私を目の前にして男が放った一言目である。
「何てことを言うのかしら。失礼な男ね」
娘が男に文句を言うが、私は、男が私を貶したことよりも審神者を貶した事が気になった。
「審神者が嫌いなのですか」
私は娘に突っかかられている男へと尋ねてみる。男はまさか、そう聞かれるとは思わなかったのか目を丸くする。
だが、直ぐに目をつり上げると口を開いた。
「違う。事の重大さも知らずに呑気な審神者が嫌いなんだ」
