
第3章 演練
演練というのが何処かの本丸で行われるのだという事を、私は始めて知った。
おかしいもので、興味がなければそれを知ろうとすることすらしなかった。
私達が訪れた本丸は、私達の本丸とは全く異なる色と空気を持っていて、キョロキョロと辺りを見回す彼等と共に、私もまた辺りを見ていた。
「あぁ、ほら。皆、カルミアが咲いているよ」
私は少し屈んでその花を見た。
「カルミア。主、その『カルミア』ってーのはなんだ?」
和泉守の問いに、私は答える。
「アメリカ石楠花の事だよ。この花の名前。」
私が教えると、彼は「ふーん」とだけ言って、直ぐに視線を逸らしてしまった。
これが、歌仙の方の兼定ならもっと別の反応があるのだろうが、面白いものだ。
飽き性の子供を宥めるように和泉守へと歩み寄って、しゃがませた上で頭を撫でてやる。
「うわっ、な、何だよ!」
「はははっ。君は少年みたいだなぁ」
「はぁ!?主の方が年下だろうが」
「少年なのは良いことだよ。」
私は膨れる和泉守の顔を見て笑う。
「そうね。少年なのは良いことだわ」
背後からかかった声に、私は振り返ってその姿を確認した。
綺麗に結われた黒髪に、高そうな着物を着た古い言葉でいう花魁の様な娘。私は彼女を見ても、若いな、なんて感想を抱いた。
「貴方も、少女みたいに可憐ですね」
私が結うこともしていない黒髪を後ろにやって言うと、すまし顔だった彼女が面食らった様な顔になる。
「お、おい。主」
山姥切が声をかけてくるが、私は意味がわからなかった。
「ふふふっ。まさか、年下にそう言われるとは思わなかったわ」
(年下……………あぁ、普通はそう考えるか)
「不快でしたか?」
取り繕うこともせずに聞き返すと、彼女は首を横に振ってゆっくりとすました顔に戻った。
「私は、この本丸の審神者をやっている者よ。今日はようこそ、私の本丸へ。残念だけど、他の審神者の人達はまだ来ていないの」
口元を着物の袖で隠しながら、彼女は言った。
私は、胸に手を当てて頭を下げる。
「お招きくださったこと、心より感謝申し上げます。私は檜扇。備後国にて審神者をしている者です。」
礼儀については甘いところがあると自負してはいるが、彼女からの返事はなかった。
なので、顔を上げて彼女の反応をうかがう。
「貴方、演練は初めて?」
唐突な質問に、失礼があったのかと記憶を探りながら頷く。
「そう」
