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~短歌~

第3章 春の園 紅にほふ 桃の花 下照る道に いで立つ娘子




毛艶の良い黒い身体。
尾先の白い自慢の尾。
凛々しく尖ったツンと立つ耳。
すらりと伸びる四肢はしなやかで強い。

私はあの怪我から少し遊びは控えた。
格上の熊にイタズラするのは危険だ。
特にあの雄熊。
意地の悪い熊だ。

「やぁ、天狐。」
「やぁ、毬栗。杉の調子はどうじゃ。」
「そろそろ出産だと思う。仔がやけに動くと文句を言っていた。」
「そうかそうか。あと少しでお前も立派な父鹿の仲間入りじゃな。」
「うん。」

すっかり鹿のいるこの山が気に入ってしまった。
人の気配はあの雄と、雄に似た匂いのする雌と、もう一人似た匂いの雄。
それ以外の匂いも気配もない。
ネズミやウサギ、木の実や果実も多くある。
夜には鹿たちと集まり月見を楽しみ、通力を披露したりもする。
これがなんとまぁ楽しい。

「おはよう、杉。」
「おはよう、天狐。」

鹿たちは優しく迎え入れてくれた。
ここの鹿たちは皆優しい。
今日は早生まれの仔鹿たちが、やんややんやとはしゃぎまわり、母親にしかられる様子が多く見える。
穏やかで、平和。
人間は昼間しか来ない、昼さえ警戒していれば、何の事は無かった。


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