第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
彼岸花は気付く。と、同時に吹っ飛ばされた。
彼岸花が見た一瞬の場景。それは、太郎太刀の骨の腕が、鎌の一本を折って彼岸花の腹部を撃つところ。
「え………」
自分の鎌を、折った?
いいや。確かに、折らなければ鎌が邪魔で彼岸花に、攻撃は当たらない。それで当然だ。彼岸花はそれを狙っていたのだから。
なのに、何故そんな思いきったことを。彼岸花に一撃いれるより、自分の鎌を折る方がずっと痛手である筈なのに。
「っ!な、た………!!」
吹っ飛ばされたものは、何かにぶつかるまで動くを止めることはない。
ぶつかるものが地面にしろ、障害物にしろ、ぶつかって初めて空中浮遊は終わりを告げるのだ。
彼岸花の場合は、それが障害物。どれだけでもある木だった。
背中に激痛が走る。骨が軋む音がした。
「!大丈夫かい!?」
燭台切が声をかけてくれるが、まともに反応もできない。
頭がぼやけて、夜だというのに目の前が白のスクリーンをかけた。
揺れる頭、押さえる暇はない。そんな慰めをする前に、刀を。
「刀………」
見ると、自分は刀を持っていた。
なんだ、案外偉いじゃないか自分。
刀にひびや刃こぼれはない。
構えて、次の手を考える。
(鎌は一本になった。それなら、手薄になった右側を狙うか?)
折れた鎌が、太郎太刀の足元に落ちている。
「……………」
それを見て、彼岸花はふとある考えに至った。
と、同時に太郎太刀の肩が再び膨らんで、鎌がもう一本はえてきた。
「む、無限にはえるんすか………」
思わず呟くと、太郎太刀が口角をあげた。
返事は聞くまでもない。となると、武器を一本一本折るのは得策じゃなさそうだ。
骨が当たった腹部を撫でる。液体の感触がしたが、それは無視。
当たった時の事を思い出す。あの腕は、そうとう固かった。
でも、それなら………。
「……………」
彼岸花は覚悟を決めて、走り出した。
足の裏が地面を蹴って、一気に距離を詰める。
太郎太刀の呼吸は安定している。だけど、もう読めている。
ならば。
彼岸花は少しだけ重心をずらした。………腹部の傷を狙いやすい様に。
(頼むから、馬鹿であってくれ………!)
彼岸花の刀が、太郎太刀へと向く。
太郎太刀はーーー再び右側から狙ってきた。