第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
「……………ほう。そう言いますか」
「あぁ。君は、絶望しか見てこなかったからそう思うんだ。その、狭い視野でね」
「貴方は違うと?」
初めて、闇落ち太郎太刀がその表情を変える。嘲笑する彼は、心底燭台切の言葉を嫌っているようだ。
「………さぁ、ね。僕にもそれは解らない。だけど、もう一度考え直してみたいとは思った。あんまりにも、頑張る子がいるからね。」
燭台切は彼岸花を見て困ったように笑う。
彼岸花は、少し迷ってニヤリと笑い返した。
「女の子にだけ働かせるなんて、かっこ悪いよね。ここらで一つ、僕らも頑張らないと」
刀を少し上げていう彼は、確かにかっこよく決まっている。
だが、その直後に「ね、くりちゃん?」と大倶利伽羅に同意を求めるのはどうかと思うのだ。
大倶利伽羅もうんざりした様な顔をしているし。
「………ふん。俺は、俺がしたいようにやるだけだ。」
「うん。だから、もう一度頑張るって事だよね?」
「……………………」
燭台切が更に追求すると、大倶利伽羅は顔をそっぽに向けてしまった。
「成る程。確かに、私の居たあの頃に逆らう者がいれば、何かは変わっていたのかもしれませんね。せめて、主に生き地獄の一つでも味あわせる事が出来ていれば、今、私がここ居たとしても、もう少し穏やかな選択が出来ていたかも」
「………あくまで、闇落ちするという選択は変わらないんだね」
燭台切が苦笑いで言う。
「変わりません。私が主に逆らった時、その時が最後でした。主は私のこの手で死んだ。一つ、面白いことを教えましょうか。地獄の参考に」
「主はね、私に殺される時、笑っていたのですよ。悪魔のような私をみて『美しい』奴はそう、言いました」
狂気の一言。彼岸花含め、皆、言葉を無くす。
「奴は、私達で神話を作り出そうとしました。」
「………神話?」
彼岸花は聞き返す。
「正確には、神話の生物を。異形の化け物の見せられた奴は、あるものには翼を骨に食い込ませて繋げ、あるものには鱗を肉に埋め、あるものには腕を骨にする改造を施した。解りますか?この意味が」
絶句。絶句。絶句。
それしかない。燭台切が横で口元を押さえた。
そして、彼岸花は思い出す。
「地下の、本棚…………!」
植物、医療、科学、そして神話。限られたジャンルの本達。あれは、前の審神者の書物。
全ての意味が繋がる。