第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
燭台切の突っ込みを受けながら、彼岸花は情報を整理する。
(そうか、成る程。私達の会話は最初から噛み合ってなかったんだな)
今考えれば、闇落ち太郎太刀(語呂がいい)が話していた事は微妙にずれていた。
闇落ち太郎太刀が別の本丸の太郎太刀だと考えれば、大きな勘違いの糸がほどけていった。
「……………ん?待てよ、ならただいまってのはどういう意味?」
それに、彼の言う仲間、とは?
「ただいま、って闇落ち兄貴が言ったのかい?」
次郎太刀の言葉に彼岸花は頷く。
「妙だね。となると、彼の本丸は何処なんだろう?」
「いいえ。妙という事でもありませんよ。彼にとってはあの本丸は自分の本丸なのです。………少し前までは」
味方の太郎太刀の言葉に皆、眉を寄せる。
太郎太刀が説明しようとしたところで、彼岸花が口を開いた。
「あぁ。そういうことか。小娘が審神者になる前の審神者が彼の主ってことか。」
「………えぇ。そうです」
太郎太刀が意外に回る彼岸花の頭を感心したところで、黙ったままだった相手の太郎太刀が口を開いた。
「お話しは終わりましたか。ならば、そろそろ覚悟を決めてもらいましょうか。」
「お断りだね。アタシはあんたにだけは殺られる訳にいかないんだ」
「ご心配なく。貴方は私の弟じゃない。私の弟は、あの悪魔に追い詰められて自分から死を選んだのですから」
さらりと告げられる悪夢のような真実。聞いてるだけですら背筋が凍りそうなのに、直接言われている次郎太刀はどんな気分なのか。
「………そうかい。でも、ま。そこはなんだっけ………あ~個体差よね。確かに、アタシはあんたの弟じゃないよ。兄貴は、あんたほど情けない男じゃないからね」
ね。と味方の太郎太刀を見る次郎太刀。
太郎太刀は無表情ながらも頷いた。
「えぇ。我ながら、情けないものです。不浄に染まるなど」
「未だ、人に好き勝手されるような貴方達の方が、私には余程滑稽に見える。解り合えるなんて、とんだ嘘ですよ。何を譲ろうとも、人間は満足なんてしない。」
闇落ち太郎太刀は顔色ひとつ変えることなく呟いた。既に、彼には弟の言葉も自分の言葉も届きはしない。
「そうかもしれないね。」
同意するような言葉を言ったのは燭台切。
彼岸花だけでなく、その場の全員の視線が燭台切へと集まる。
「でも、それすら間違いかもしれないよ」