第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
彼岸花が堪らず座り込むと、見学をしていた二人が近寄ってきた。
「お疲れさん。中々粘ってたな」
「そこ以外誉めるとこないんすか」
「え、んー。あ、最後のあれは見たこと無いな。あれって、何なんだ?」
「あー。あれ、あれはフェンシングだよ」
彼岸花が答えると、獅子王を含めて話を聞いていた二人も解らないという顔をした。
その様子に彼岸花は落胆する。確かに三人ともフェンシングには驚いた様だが、それは見知らぬ動きに驚いただけで、彼岸花自身の力量に驚いたわけではないのだ。
解ってはいたけれど、悔しい。それに、恐い。初めて人(刀)を恐いと思った。三人とも、殺そうと思えば本当に殺せたのだ。
三人には、戦闘の時どんな景色が見えているのだろう。
自分がその境地に立つときの事を、彼岸花はどうにも想像できないのだ。
「ふー。よし。もう一回お願いします」
「え、まだやんのか!?中々に、体力あるな」
「なんか、三人ほど強くなるときが想像できないんだ。」
「?ならば逆に意気消沈してしまうのでは?」
「いや、解んないから早く知りたい。強くなれないなんて事は無いからね。寝ても覚めても想像できならそこまで登るだけだよ。というわけで、次!」
獅子王とお供の言葉に答えると、彼岸花は庭の隅に刺さった木刀を回収した。
戻ると、三人が妙な顔をしているので彼岸花は思わず眉を潜めた。
「どうしたんすか。三人とも酷い顔」
「いや、よくそんな考えに至るなーと」
獅子王はそう言って苦笑いするが、彼岸花は首をかしげた。
「そう?褒めてくれてるなら、ありがとう。」
「いや、褒め言葉ではないよ。」
「えっ」
歌仙の言葉に彼岸花はますます意味がわからなくなってしまった。
「まぁ、取り敢えずもう一回戦うんだろ。なら、この獅子王様が相手になるぜ」
ニヤリと笑う獅子王に彼岸花は頷いた。
「よろしくお願いします」
「おう。かかってきな」
手招き付きの挑発。彼岸花は意味を理解しているので、木刀を構えた。
先ず、今の戦いを活かして相手の呼吸を乱すことから始める。
獅子王の呼吸を聞く為に、彼岸花は木刀を振りおろした。