第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
「取り敢えず、そんな急に話しかけられても冷たい反応しか返せませんよ?」
「ま、まぁ、僕らの話はまだ解決してないしね………」
自分に言い聞かせる様な燭台切を見ながら、彼岸花は息を吐いた。
別に喧嘩がしたい訳じゃない。だが、敵か味方か立場もはっきりしていないのに話しかけられるのは複雑だった。
「で、結局私の話は通じたのかな」
「………そう、だね。一つだけ確認したい事がある」
「言ってみなさいな」
「君の話を信じるとしたら、歌仙さんは自らの意思で君に味方をしたことになる。他の皆も」
「そうだね。多分嘘偽りは無いよ。私は彼等とは話をしただけだ。脅しも買収もしてない」
「そう………歌仙さんは変わることを選んだんだ」
そう言う燭台切の声には少なからず悲壮感が滲んでいた。彼岸花は、置いてあった机に肘をつくと、前に燭台切の言ったことを思い出す。
最後は一緒だと、燭台切は言った。炎が恐くない人がいない様に、彼岸花も恐怖に負ける日が来ると。
そして、突っかかるのは構わないが自分達に飛び火だけはするな、とも言った。
「誰だって、死ぬのは恐いよね」
彼岸花が呟くと、燭台切は何が言いたいのか理解できないらしく、彼岸花を見た。
「死ぬのは恐い。だけど、それなら逆にどうして生きているの?変わらなくていい、なんてさ。無理だよ、時間は流れている。私達がもがくことも止めたら、流されて溺れていくだけだ。」
「それは、解ってる。だけど………」
「私はね、花を見るために生きてるんだ」
「え?」
燭台切が聞き返す。呟いて、彼岸花自身もぎょっとした。口が滑った。
(まぁ、いいか………)
「どうしてもね、見たい花があるんだ。それを何時か見るために、ここにいる。」
「でも、その花を見るとき、誰かが苦しんでいたら意味がないんだ。私は、私の精一杯を尽くしてそれから、見に行きたい。私が、私らしく生きている時に」
「生きる………」
「生きるっていうのは色んな解釈があるけど、別にどんな解釈をしていても構わないんだ。明日も自分の心のために生きられるならね」
「……………」
「君が私の味方をしてくれるまで話すことが、私の目的じゃない。貴方が引き続き『関わるな』というなら、私はそれを守るつもりだ。最後に決めるのは君。それだけだよ」
言って、彼岸花は燭台切の返答を待った。