第5章 第四章 ドッペルゲンガーという概念は我々にはない
「何ーーー?」
「失うものなんて何もない。そうだよね。本当に大事なものは見えるものじゃないから。貴方がそれを知っているのなら、確かに私の助けは要らないのかもね。でも、だからといって諦めるのは間違いだ。」
「…………………」
沈黙。それはつまり、彼女の言葉を聞いているということ。
「助けたいなんて、偉そうには言えない。だけど、そう言いたい。言えないようなら、そんな考えおこしてないよ。」
「関係ないって君は言うけど、私には十分大切なことだ。貴方は、どうかな?」
「…………………なぜ、答える必要がある」
「答えないのは逃避だよ。貴方だって、大切なものはある筈だ。それを持ってして、答えられないのは狡いよ」
彼岸花は大倶利伽羅の目を見て話す。
大倶利伽羅は少しだけ、ほんの一瞬だけ燭台切を見ると、元の位置まで戻ってしまった。
「……………大切なものがあったら、悪いか」
「く、くりちゃん…………!」
「やめろ、光忠」
「君もそう思ってくれてたんだね………!」
ジーン、と効果音の着きそうな顔で燭台切は大倶利伽羅の手を上下に振る。
感動的な光景に彼岸花がによによしていると、襖の開く音がした。
見れば、ピンク色の髪をしたえらい細い青年が退出しようとしていた。
彼岸花と目が合うと、彼はうんざりとした様子で言った。
「付き合いきれません。貴女は聖女でも気取っているつもりですか」
「……………いや、初めて口開いて一言目がそれかい。先ず先に言うことがある…………あ、おい!待てや!!」
無視して廊下に出ていく彼に声をかける。しかし、無視されてしまった。
「えぇー。こりゃまた、凄いなあの人」
「すみません。弟が」
「え、あ。あぁ、お兄さんか。取り敢えず、話し合いをした方がいいと思います」
絶対零度のあの目を思いながら彼岸花は呟く。まだ、お兄さんの方は話が通じそうだ。
「………そうします。すみません、私達もこれで…」
「あ、はぁ。」
彼岸花が頷くと、お兄さんと弟さんが出ていった。
「江雪さんはね、君と話をしたいって自分から言ってきたんだよ」
声に振り返ると、燭台切が真顔でこちらを見ていた。
「私と?何でやろ」
「彼は、元々争いが嫌いな刀だからね」
「ふーん。そうなんすか」
「き、興味ないなぁ」
「いや、無い訳じゃないけど………」
「けど?」